vol.32 血圧はいつも一定じゃないよ。
2019/12/16
血圧はいつも一定じゃないよ。
血圧はいつも一定ではなくて変動しています。それは、高血圧の患者さんに限ってのことではなく、正常な血圧の人も同様に変動しています。一般的には睡眠中の血圧は低く、日中の活動時間中は血圧が高くなり、夜にかけてまた徐々に血圧が低下していくリズムがあります。
ただ反対に就寝前の血圧より、早朝の血圧が高い人は脳卒中、心疾患のリスクが高いと言われています。
具体的には、早朝の血圧(Morning)就寝前の血圧(Evening)の差(頭文字をとってME差)を計算して大きい人を示します。
ME差 = 早朝の血圧(Morning)- 就寝前の血圧(Evening)
高齢者が急に血圧が上昇する原理
よく夜間の救急などをやっていると、特に高齢者の方が普段は血圧110/60mmHgくらいなのに、1時間くらい前から急に血圧が190/100mmHgに上がってふらつくなど言われる患者さんが来られます。最近は高齢者で独居の方も多いので急に血圧が上がってふらついたりすると不安になりますよね。今回はどういう原理で急に血圧が上昇するのか、どう対処すればいいのかお話します。
血圧の原理
血圧は昔、中学校くらいの時に習ったオームの法則と同じように考えることができます。
オームの法則
電圧(V ボルト) = 電流(A アンペア) × 抵抗(オーム)
血圧
血圧 = 血流(血液量) × 血管抵抗(動脈硬化の程度)
と置き換えることができます。血圧が上昇する原理としては血流が増えれば血圧が上昇しますし、血管抵抗が上昇しても血圧は上昇します。具体的に血流が増えるには、塩分の多い食事を食べる、抗利尿ホルモン系(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系)の活性化、心悸亢進(心臓が頑張って血液を多く拍出すること)などがあります。また血管抵抗の上昇は、動脈硬化によって血管の柔らかさが無くなり血管の抵抗が増すことや、交感神経が優位に働くことで血管が収縮し抵抗が増す、あるいは上記の抗利尿ホルモンによって直接血管を収縮させ血管抵抗が増すなどが考えられます。
なぜ高齢者は急激に血圧があがるのか??
血圧は前述しましたようにオームの法則で成り立っているとは考えられますが、それは交感神経(主に緊張状態)や副交感神経(リラックスした状態)、各種のホルモン系(レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系だけではなく甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモン、成長ホルモン、性ホルモンなど)、心臓のパワー、食事内容、肥満、遺伝、メンタル面、季節など…数多くの影響を及ぼす因子があり、その絶妙のバランスの上で成り立っていると考えます。そこに、マクロで言えば臓器(脳や心臓、肝臓、腎臓、胃、腸、筋肉、骨、皮膚など)、あるいはミクロで言えば37兆個にも及ぶ細胞の数々が、網の目のようなネットワークを組んでいます。もし体のどこか一部で多くの栄養や酸素が必要となれば、心臓は瞬時にポンプの機能を上げ、血圧を上昇させその臓器めがけて血液を供給し、やがて需要が低下すれば速やかに回復します。若い人や正常な血圧の人は、さほど血圧を上昇させずとも低い圧力でもスムーズに必要に応じた血液を送ることができるのですが、血管に動脈硬化が進行すると弾力性が失われ、やがて十分な血液を送るためには高い圧力が必要になってくるのです。そこにストレスや環境の変化、飲酒、排便、寒冷、あるいは服薬アドヒアランスの不良などの刺激が加わることで更に多くの血液需要が必要というシグナルが出て、さらに高い圧で心臓は血液を送ろうとしますが、それでも足りないとなるとさらに大きな要求指令(交感神経やホルモン)が心臓に伝わり、血圧は著しい上昇を来すという悪循環に陥っている状態です。
その時はどうしたらいいの?
対応としましては、まずは上記の血圧上昇因子の取り除くことを考えましょう。さらに普段の血圧の状況を見ながら処方・内服薬の変更、容量・用法の変更も有効と考えます。また血圧が高くなった時に服用する薬については高血圧に精通した主治医の指示に従います。以前はアダラートの舌下投与をされていた時期もありましたが、急激な降圧されることへの臓器障害や心筋梗塞などを発症することも指摘され現在は行われていません。その時は長時間作用型降圧薬をお勧めします。
また落ち着いた後で血圧を急激に上昇させるような病気が隠れてないかを検索していくことも必要と考えます。
血圧が200mmHg以上になったり、頭痛や神経症状がある「高血圧緊急症」についてはまた後日に掲載します。
すぎもと医院 院長 杉本 由文
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