
甲状腺外来は、毎週土曜日に行っております。
担当医は 杉本 有紗(プロフィールはこちら⇒)です。
お気軽にご相談ください。
甲状腺疾患について
甲状腺とは

甲状腺は、喉ぼとけのすぐ下にある小さな臓器で、蝶が羽根を広げたような形をしており、気管を取り囲むように位置しています。そして、全身の新陳代謝や成長の促進にかかわるホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌しています。
甲状腺疾患でよくみられる症状
甲状腺疾患の症状は、疲れやすい、むくみやすい、便秘、冷えなどの症状や、あるいは逆に動悸がする、イライラして落ち着かない、暑がりで汗をかきやすいなど、多くの女性が日々感じている症状が多いものです。
そのため、ご自身の判断で、「産後の疲れだろう」「更年期だから仕方がない」「老いによるものだ」などと思い込んで諦めてしまっていた方が、調べてみると実は甲状腺の病気が原因だった、などというケースがしばしば見受けられます。
甲状腺疾患は、女性によく見受けられる病気で、男女比は1:5とも言われています。
主な甲状腺疾患
- 甲状腺疾患は大きく3つに分けられます。
- 甲状腺ホルモンの量が変化する疾患
- 甲状腺内に腫瘤ができてくる疾患
- 上記両者の合併する疾患
甲状腺ホルモンの量が変化する疾患
- 甲状腺機能亢進症:バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎など
- 甲状腺機能低下症:橋本病(慢性甲状腺炎)、粘液水腫、手術後甲状腺機能低下症、アイソトープ治療後など
バセドウ病
どんな病気?
バセドウ病は、本来自分の体を守るはずの免疫が自分自身の甲状腺に反応して起こる病気で、この免疫反応は自己免疫とよばれます。自己免疫により甲状腺細胞の表面にあるTSHレセプターに対する抗体が作られ、この抗体が甲状腺を刺激するために甲状腺ホルモンが過剰になります。甲状腺ホルモンが過剰になると新陳代謝が盛んになり、交感神経の働きが活性化されます。その結果、暑がり、発汗が増える、食欲増加、手の震え、動悸、体重減少などの症状が現れます。
特に女性に多く、男性に比べて約4倍の頻度で発症します。
治療法は?
抗甲状腺薬という薬で甲状腺ホルモンの合成を抑え、血液中の甲状腺ホルモンを正常にする治療です。アイソトープ治療や手術なども行われます。
▼抗甲状腺薬に関する説明はこちら
抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用について
副作用は内服開始後2~3ヶ月以内に起こることがほとんどで、その間は2~4週に一度副作用がでていないか診察で確認します。それ以降は副作用の頻度はかなり低くなります。
いずれの副作用も適切に対処すれば問題ありません。しかし無顆粒球症候群や重度の肝障害は対処が遅れると生命にかかわる危険なものです。またメルカゾールに関しては、胎児の奇形との関係について留意する必要があります。
白血球の中の顆粒球が極度に減少する、最も注意が必要な副作用です。細菌に感染しやすくなり、敗血症などの感染症をおこします。副作用の頻度は約300人に1人で、まれにしか起こりません。内服を始めてから3ヶ月以内に起こることが多く、内服を始めてから2週間以内や長期間内服を続けている場合には起こることはほどんどありません。ただし長期間内服していた方であっても、一定期間内服を止めて再び飲み始めたときは起こることがあります。
初期症状として、風邪様症状(発熱、のどの痛み、全身倦怠感)等がでます。このような場合は直ちに内服を中止し受診してください。夜間などの診療時間外は、内服を中止して翌日必ず受診し、翌日が休日などの休診日の場合は救急医療機関を受診してください。
治療は、無顆粒球症であれば入院加療が必要となります。顆粒球が低下していない場合は、通常の風邪治療などを行います。
最も多くみられる副作用で、かゆみのある赤いブツブツがでます。内服を中止し、1週間以内に受診してください。ただし症状が強い場合はできるだけ早めに受診してください。
治療は、軽傷の場合は内服を中止するか、抗ヒスタミン薬を内服するだけでおさまります。中等症以上の場合は副腎皮質ステロイド薬の内服を行います。
軽度の肝障害であれば、自覚症状はなく血液検査で確認が必要です。中等症以上であれば、嘔気や食欲不振、倦怠感、黄疸などが症状として現れます。 このように症状だけでの判断は困難ですので、早めに受診して検査をうけてください。
その他の副作用発熱、関節痛、血尿、低血糖発作、再生不良性貧血などがありますが、いずれも頻度としてはまれです。また、ほとんどの場合は内服を中止すると回復します。
メルカゾールと胎児の奇形との関連(女性)メルカゾールを妊娠初期に服用していると、その児にメルカゾールに関連した奇形に生じる可能性があり、その頻度は2%程度です。妊娠を計画中、または妊娠の可能性がある方は必ず申し出てください。抗甲状腺薬の内服が必要な場合はプロパジールを内服していただきます。
無痛性甲状腺炎
どんな病気?
何らかの原因で甲状腺が壊れ、中に蓄えられていたホルモンが血液中に漏れ出し、一時的に甲状腺機能亢進症の症状を引き起こす病気です。名前の通り痛みがないため、「無痛性」甲状腺炎と呼ばれます。
治療法は?
バセドウ病との区別が難しい場合もありますが、無痛性甲状腺炎は治療せずとも1〜2ヶ月で自然に回復するのが特徴です。症状が強い場合は、動悸や手の震えを和らげるために、対症療法としてβ遮断薬を使用することがあります。
亜急性甲状腺炎
どんな病気?
亜急性甲状腺炎は、甲状腺に炎症が起こり、痛みを伴う病気です。ウイルス感染が原因と考えられていますが、明確には解明されていません。風邪のような症状が前触れとして現れ、2〜3週間後に急に発症するのが特徴です。
甲状腺が腫れ、押すと痛みが出るほか、高熱や動悸、倦怠感が伴うこともあります。
治療法は?
症状が重い場合は、痛み止めやステロイド剤を使った治療が行われます。
橋本病(慢性甲状腺炎)
どんな病気?
橋本病は、本来自分の体を守るはずの免疫が自分自身の甲状腺に反応して起こる病気で、この免疫反応は自己免疫とよばれます。自己免疫により甲状腺に慢性の炎症が起こり、甲状腺が腫れます。また甲状腺の炎症の悔過、甲状腺ホルモンの合成機能が低下してくることがあり、甲状腺機能低下症のおもな原因となります。甲状腺ホルモンが不足し、新陳代謝が低下するため、寒がり、体重増加、便秘、むくみ、関節痛、物忘れがひどい、疲れやすい、髪の毛が抜けるといった症状が見られます。
特に女性に多く見られます。
治療法は?
甲状腺機能が低下している場合は、甲状腺ホルモンを薬として補充します。ただ甲状腺機能が低下している場合でも、その低下症が一過性で自然に回復する場合があり、そのような可能性がある場合は治療を開始せずに経過をみることがあります。
▼甲状腺ホルモン剤に関する説明はこちら
甲状腺機能を正常にするのに必要な量を内服している限り副作用が出ることはなく、薬として内服した甲状腺ホルモン剤と、甲状腺が体内で作る甲状腺ホルモンには違いはありません。
一方、甲状腺ホルモン剤の吸収を妨げたり、代謝に影響を与える食品や薬剤などが知られています。これらが影響すると、甲状腺ホルモン剤を指示された通りに内服しても、甲状腺ホルモンの効きが悪くなることがあります。
甲状腺ホルモン剤の効きを悪くする因子及び薬剤
1. 消化管内で甲状腺ホルモンと結合してその吸収を妨げる
- 高食物繊維食品:野菜ジュース、青汁、ダイエット食など
- コーヒー
- 脂質異常症治療薬:コレバイン、クエストラン
- 胃薬:アルサルミン、マーロックス、キャベジン、プロマックなど
- 貧血治療薬:フェロ・グラデュメット、フェロミア
- 過敏性腸症候群治療薬:コロネル
- 慢性腎不全の治療薬:沈降炭酸カルシウム、レナジェル、ケイキサレート
2. 胃酸分泌低下による吸収不良
- 胃薬:オメプラール、タケプロン、パリエットなど
- 慢性胃炎などによる胃酸分泌低下
3. 吸収不良を起こす疾患
- 腸粘膜の病気や腸の切除後
4. 吸収を妨げるが、その仕組みは不明
- 抗菌薬:シプロキサン
- 骨粗しょう症治療薬:エビスタ
5. 甲状腺ホルモンの必要量が増加する
- 妊娠
- 女性ホルモン剤:エストロゲン
6. 甲状腺ホルモンの分解を早める
- けいれん治療薬:アレビアチン、ヒダントール、テグレトール、フェノバール
- 結核治療薬;リフェジン
7. T4からT3への代謝を減少させる
- 抗不整脈薬:アンカロン
※1の食品や薬剤はそれらと一緒に甲状腺ホルモンを内服しなければ問題ありません。時間をずらして内服すればよいので、夕食時間と就寝時間までの間の時間が長い方は、甲状腺ホルモン剤は就寝前に、起床時間から朝食時間までの間の時間が長い場合は、起床時に内服するのがよいです。
それ以外の場合は、内服時間をずらしても、影響を軽くする効果はあまりないかもしれません。
甲状腺内に腫瘤ができてくる疾患
- 甲状腺良性腫瘍:腺腫、嚢胞、腺腫様甲状腺腫など
- 甲状腺悪性腫瘍:甲状腺がん(乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がん)、悪性リンパ腫など
甲状腺の疾患は治療すれば軽快、またはコントロール可能です
甲状腺の病気は、きちんと治療すれば軽快、またはコントロールできるケースがほとんどです。甲状腺の悪性腫瘍(がん)の大半は乳頭がんで、5年生存率は90%以上というデータもあります。早期に発見し、適切に治療を行えば、治癒する可能性が十分にあります。
こんな症状は受診をお勧めします
- 首に腫れがある
- 暑がり、寒がりになった
- 胸がどきどきする、もしくは脈がゆっくりになった
- 疲れやすい
- 体がだるい
- 体重の変動があった
- 手足が震える
- 汗が異常に多い
- 髪の毛が抜けやすい
- 顔や手がむくむ
- 便秘ぎみ
- 月経不順になった
当院では、患者さん一人ひとりに寄り添い、わかりやすく丁寧な説明と治療を心がけています。初めての方でも安心してご来院いただけるよう、リラックスできる環境を整えております。お体の不調や不安な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。