vol.21ナルコレプシーと睡眠時無呼吸症候群
2018/12/26
ナルコレプシーは、「過眠症」のひとつで、簡単に説明しますと「眠くなる病気」です。
主に眠くなるという症状の原因は、「寝不足」と「睡眠時無呼吸症候群」が多いです。現在、日本人の睡眠時間自体が非常に短くなっていますが、睡眠量のみならず質も悪くなっていることも問題と言われています。睡眠の質ということで代表的な病気は睡眠時無呼吸症候群でして、しっかり睡眠時間をとっても眠りの質が悪いために日中に眠くなります。
その点では、眠りや目覚めの調節機構自体は正常に働いていると考えられます。
ところが、夜の眠りの量や質に関係なく眠くなる「過眠症」があります。ナルコレプシーは、その「過眠症」のなかでも代表的な病気のひとつです。脳の覚醒中枢の働きが悪くなっているために、覚醒し続けられずに眠り込んでしまうと考えられています。
疫学
ナルコレプシーの患者さんは、日本では600人に1人は存在するとも言われていますが、本人や周りの人はなかなかこれらの症状を病気と認識しないことが多く、診断治療をしている人も少ないとされています。
また男女比も特に有意差はなく、日本では13~14歳が発症のピークであると言われています。
ナレコレプシーの症状
通常ならば寝てはいけない重要な場面でも我慢できないほどの強い眠気に襲われたり、急に眠ったりすることがあります。
また睡眠をしっかりとっていても居眠りを繰り返してしまうのがナルコレプシーに特異的な症状で、ナルコレプシーの症状が重い人では「眠い」と思う前に眠ってしまい「気がついたら寝ていた」という「睡眠発作」がみられることもあります。
またカタプレキシー(情動脱力発作)という、びっくりしたときや、感情が高まったとき(特に笑ったとき)に力が抜ける症状を伴い、眠りについた際には金縛り(睡眠麻痺)や幻覚(入眠時幻覚)などの症状を自覚することがあります。ナルコレプシーの合併症としてはうつ病や抑うつ状態などの気分障害、不安神経症、肥満が認められることもあります。
ナルコレプシーはチョットした刺激で目覚めやすく寝起きも良く、昼寝をした場合も10~30分と短いことが特徴です。
夜間睡眠では経過とともに中途覚醒が増加する場合も多くみられます。一方で、特発性過眠症は、頭痛や冷え性、立ちくらみなどの症状を伴うことが多く、会話が成り立たないほど非常に目覚めが悪いといった特徴があります。
ナルコレプシーの原因
脳の視床下部から分泌されるオレキシンというホルモンによって脳が覚醒するのですが、現在詳しい機序はわかってはないのですが、風邪などの感染が原因で脳内物質のオレキシンを産生する神経細胞が免疫応答により障害されるためという仮説もあり、視床下部からのオレキシンの分泌が低下することで脳の覚醒が維持できない、突然眠ってしまうという症状を呈します。
現にナルコレプシーの患者様は体内のオレキシン濃度が極端に低下しています。
ナルコレプシーの診断
ナルコレプシーの診断については、睡眠時無呼吸症候群でも使われるPSG検査、血液検査で白血球のHLA遺伝子型を検査する、あるいは脳脊髄液検査でオレキシン濃度を測定するなどで診断されます。
ナルコレプシーの治療
ナルコレプシーは病気を完治することは難しいため、治療法としては薬物治療と生活改善によって日中の眠気などを抑える対症療法になります。
特に生活習慣の改善が必要で、そのためにはまずナルコレプシーという病気を理解しそれと付き合っていく必要があります。
つまり、ナルコレプシーは「起き続けられない病気」なので、特に昼休みなどに仕事中にでも短時間の仮眠をとることができれば、あるいは昼寝をする習慣をつけていれば薬の服用を減量、中止することも可能です。
とにかく健常者と同じように無理をするのではなくナルコレプシーという病気の特徴に合わせた生活習慣を心がけるのが肝要です。
また薬物治療では過眠症状に対しては、メチルフェニデート(リタリン®)、ぺモリン(ベタナミン®)、モダフィニール(モディオダール®)など、中枢神経刺激薬といわれる目を醒ます薬が治療反応性によく、副作用が少ないとされています。
また情動脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚に対しては、クロミプラミン、イミプラミン、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬でレム睡眠抑制作用のある薬が用いられます。
ナルコレプシーは経過とともに約10%の人が軽快すると言われていますが、基本的には長く病気とつき合っていく必要があります。
まずは睡眠をしっかりとることと、睡眠に留意した生活を行っていき、薬物療法と併用することで社会生活も充分に送れる病気です。
ただ診断や治療が遅れたり適切に行われなかったりすることで、直接的に社会生活ができなくなったり、うつ病や不安障害などを合併することも多いためそれによっても社会から離脱していくことになりますので、ナルコレプシーなど不安が少しでもあれば専門の医療機関を受診することをお勧めます。
すぎもと医院 院長 杉本 由文
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